遠い偶然
高校を卒業してから、半世紀近くにもなる、高校時代のことなんてはるか遠い昔のできごと。
昔のことの方が良く憶えているとはよく言ったもので、先週のことよりも思春期の頃のことで鮮明におぼえている出来事も確かにある。
それが、初恋ともなればなおさらのこと…
そんな遠い過去から、今年の10月、しかも遠く離れた九州から東京の地に偶然が訪れた。
東京でこの春知り合った友人とカフェでランチをしていた時のこと。
彼女から、病気のことで相談を受けた。健康のことを話しているうちに話題が彼女の友人の話にまで広がっていった。
「その友達はね、癌の治療を九州のある病院でしたの。なんでも女優の○○さんもかかっていた先生でとても有名なところなんですって。でも診療の仕方が変わっていて、文書での予約しか受け付けてくれないんですって。」
彼女が言うには、私の出身県だから、私なら当然知っているはずと言う。知らなかった私は、彼女に呆れられてしまった。彼女はその癌を患った友達の話の仔細を思い出そうと宙を見上げながら、記憶の中から出てきた新しい情報をとりとめなく私に、たりない釣銭を加えていくかのように話してくれた。病院の名はどうしても出てこなかった。
私の故郷に癌治療で有名なそういう病院があることは全く知らなかった。
ただ、放射線科で有名な病院があることは知っていた。その放射線科の記憶はきちんと私の記憶の中に収められていた。
とはいえ、残念ながら彼女の話を照合しても、私のものとはぴったり合わなかった。
初対面の時から、気が合いそうな女性だったが、二人でゆっくり話せてたのは初めてだった。空いていることをいいことに、3時間以上私達はお喋りした。
帰宅して、しばらくして、彼女からラインが入った。
彼女の友人の治療した病院の名が書かれていた。
何とその病院の名は私の記憶の中にきちんと収められているものだった。
医学部を受験する先輩のために、お守りを渡したあの日、春になると桜並木が美しい公園だった。
故郷に帰省した折、何度か訪れたことはあったが、記憶の中の公園と同じ場所と思えない位、遠い遠い影。先輩が卒業した後の高校生活は、恋とかボーイフレンドとか全く関係ない学生生活を送っていた私。受験生になった私に先輩から一通の手紙が届いた。
自分の大学の近くの短大に進学しないか、というものだった。私はただただ驚くことしかできず、返事も出さなかったような気がする。
あれから何年経った頃だろう。
ある時、ネットで医師としての先輩の業績を知った。あの時のお守りもちょっとだけ役に立ってくれたのか、、、
それにしても、こういう偶然もあるんだ!
今の日本にどれくらいの数の医師がいるのか、それもさることながら、
私が今年東京で知り合った、この友人は何千万の中から出会えた一人、
そして、そんな彼女から相談を受ける確率はどれくらいのものなのか。
人と人の出会いの妙に驚かされるばかり。